CEO MESSAGE


子供のころ「たとえば、ストーブを1人ですべて作れる人」になりたかった

これから仲間になってくれるかもしれない皆さんに、どんな思いで私がNature Architectsのような会社を創ろうと思ったのか、今どのように手応えや未来を感じているのかといったことをお話ししたいと思います。
原点は、大学受験時の進路選択でした。普通は機械工学科や物理学科など専門領域を考えますが、私の頭にあったのは「たとえば、ストーブを1人ですべて作れる人」になりたいということでした。ものはストーブでも何でもよかったのですが。1つのプロダクトの設計から製造、デザインまで1人で完遂できる人っているのだろうか、タッチパネルがあるとソフトウェアも必要だぞ。そうなるにはどこで何を学べばよいのか、そんなことを考えていました。統合という意味ではアートが近く、メディアアートであればプログラミングから最終的な表現、体験の創出まで、すべてを1人やスモールチームで行えると考えて選択したのですが、やってみると自分が求めていたものとは違いました。全体観を俯瞰して理解したいと願い、それができそうなところに行ったら、結局縦に深堀りしないと全体が見えず、正しく理解したことにならないと感じた、というのが正直なところです。とりあえずロボットを作ったり、コンクリートをこねて構造体を制作したりと、いろいろつまみ食いしながら、どこを深めるべきかと考えていました。
 

鉄も木も、計算通りグニャグニャに動かせる。この手応えで景色が変わった

転機となったのは、研究室の3Dプリンタやレーザーカッターなどで手を動かして様々なものを作っていた頃です。ある日、特殊な切り込みパターンを入れて特定方向にのみ曲がる物体を見て、自分でも木材に切り込みを入れてみて驚きました。どういうパターンを刻めば、どんな柔らかさが生まれるのか。「この現象は数理的に記述可能であり、これを使って柔らかさなどの弾力を自在に設計できれば、単なる立体的なオブジェに留まらず、製造業など、世の中で使われる製品につながるはずだ」と気づいたのです。これを突き詰めれば「1つのプロダクトの企画から設計、製造まで1人で完遂できる人」になれるのではないか、と。3Dプリンタをはじめとするデジタル制御可能な工作機器が安価になってアクセスしやすくなると、1人の人間が数理的モデルを作り、設計手法を開発し、実際の物理的なものを作り、実験して・・・というのを一気通貫でき、そのループを回せるようになる。学問の在り方が変わって見えました。
こうして自分が関心を持っていたようなことが、この1枚の曲げ木の中に詰まっていると感じ、これを新しい研究分野として自分が切り拓いていけるのではないかと考えました。その過程で、未踏IT人材発掘・育成事業に「材料の伸縮性を生かした材料加工および曲面造形システムの開発」のテーマで採択され、スーパークリエータに選出されました。


最強の「幾何学的エキスパート集団」

起業したのは自然な流れでした。もともと研究者になっても、将来はボストン・ダイナミクスのようなインパクトのある研究機関が作れたらいいなと思っていました。大学研究室からスピンアウトして、その領域のフロントランナーになるイメージですね。また、自分の研究の背景となる考え方や大事にしていることが新しい職業につながっていき、長い目で見て世の中を変えるポテンシャルがあると、当時から感じていました。
建築領域ではザハ・ハディドが象徴的です。複雑で自由な形状を造るために、それまでの建築意匠、構造設計、建設施工の三者とは異なる、形の問題を数理的に解決する職能集団が生まれ始めていました。たとえば、複雑な曲面形状でガラス張りの建築を造るときに、5種類の曲面だけで建築家が描いたものを最大限表現できるよう部品とその組み合わせ方を考える必要があります。そうなると人間の頭だけでは手に負えず、コンピュテーショナルに幾何学的な問題を解くことで、その施工のしやすさや製造コスト、構造的に成り立つかをすべて考えねばなりません。その間を取り持つのが、幾何学のエキスパート集団でした。彼らは幾何学をベースとして設計、構造解析、製造制約を横断して困難な開発を成立させる新しい職能を持つ集団でした。こうした技術領域は自分が取り組んでいた研究と似ていました。そこで私は建築業界に限らず広く製造業全体でもそのような職能や仕事が必要になっていくのだと直感しました。
 

今の製造業には絶対的な矛盾がある。だからこそ世界で勝負できる

実際に事業をやってみると、その直感は確信に変わりました。現在のものづくりの矛盾に気づいたのです。
製造業企業には新しく設計で解決しなければならない課題がたくさん存在します。一方でものづくりの現場は、エンジニア不足や、先端技術の実践的な活用方法がわからない、異なる部署間の連携が難しい、など真の意味でイノベーティブな設計開発を行うことが難しい状況に直面しています。

本当の意味で新しい設計開発のためには、従来の常識を超える具体的な提案が必要であり、そのためには設計、性能評価、製造技術など異なる領域の技術を統合し、筋よく沢山の試行錯誤を行う必要があります。

当社ではメタマテリアルに根ざした設計技術を開発し運用することで、困難な課題を解決し続けています。そもそも、メタマテリアル研究はこれまでに存在し得ない物理的な機能をもつ人工物質を生み出す研究だと言えます。メタマテリアルの研究から生まれた、構造に関するデータの蓄積や独自の設計技術を活用することで、たとえば、複数の部品を一体化、軽量化、省スペース化したり、変形、振動、熱、音など様々な物理現象に伴う性能の向上を実現できます。

ものづくりにおいて、日本は世界トップクラスのメーカー(特に、材料や部材)がたくさん存在しています。そこに、世界でもっとも尖ったメタマテリアルの設計技術を持っているNature Architectsがいる。この力を掛け合わせることで、世界のものづくりや人々の生活を変えることすらできると信じています。私たちは、製造業における「設計の頭脳」となり得るポジションにいると考えています。


一緒に世の中を変える仲間と出会いたい

現在はメンバーも増え、事業も大きく拡大しています。たとえば自動車のEV化には、誰も取り組んだことのないような課題が山積しています。部品の小型・軽量化と、衝撃吸収性能、法規を満たす安全基準の担保といった要件をそれぞれ高い水準でクリアしなければなりません。それには、設計、性能評価、製造などの異なる領域を横断する、数理や幾何学に精通した媒介者や集団が必要であり、それがNature Architectsなのです。クライアントの技術チームが蓄積してきたナレッジを活かした上で、より良いものを提案するなど、レベルの高いコラボレーションができています。また、PoC(課題検証)に終始するのではなく、量産する車の開発に携わり、顧客が今直面している切実で難しい課題を、独自の設計技術でクリアし世の中に送り出す支援をしています。こうして自分たちの価値を眼に見える形で社会に届けられる会社となっている今、新たな仲間を心から求めています。自らの力で最先端技術を開発し、製造業が直面する課題を解決することで世の中に大きなインパクトを与えたい人は、ぜひNature Architectsにコンタクトしてみてください。
 

代表取締役 CEO
大嶋 泰介

東京大学総合分化研究科広域科学専攻広域システム科学系博士課程単位取得後退学。独立行政法人日本学術振興会特別研究員(DC1)、筑波大学非常勤研究員などを経て、2017年5月にNature Architectsを創業。メカニカル・メタマテリアル、コンピュテーショナルデザイン、デジタルファブリケーションの研究に従事する。独立行政法人情報処理推進機構より未踏スーパークリエータ、総務省よりイノベーションプログラム認定。文部科学省よりナイスステップな研究者2022に選定。

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