「龍のうろこ」に衝撃を受け、折紙の世界へ
これから仲間になってくれるかもしれない皆さんに、代表である私がどういう経緯で今に至り、ここから皆さんと一緒にどんな世界を見たいと考えているのか、ぜひお話ししたいと思います。
私は小さい頃から手で何か形を創ることが好きで、段ボールや箱を切り刻んでロボットや立体のようなものを作ったりしていました。転機となったのは、小学生の時にテレビで見た折紙作家、神谷哲史さんの作品でした。1枚の正方形の紙を切らずに折るだけで、昆虫や空想上の生き物をものすごく精巧に折り上げてしまうのです。龍のうろこの1枚1枚まで細かく表現されていて、「どうすればこんなものが創れるのだろう」と衝撃を受け、やがて自分でも作品を考えて折るようになりました。どう折り線を配置して、どこからどのパーツを折りだして・・・というのを1つ1つ考えて設計するというのに熱中し、制約があるなかで創りたい形をひねり出すのが醍醐味でした。これが今の仕事につながる原体験です。
数学、物理、工学、医療、教育、、折紙は多様なアプローチができる「異分野の架け橋」
数学が得意だったという理由で大学の数学科に進みましたが、数学という学問は歴史がとても厚く、最先端にたどり着いて自分が切り拓いていけるイメージを持てずにいました。そんな中、やはり子供のころから魅せられてきた「折紙」を使って研究をしたいと思うようになりました。東京大学に折紙工学をテーマとしている研究室があると知り、大学院で専門的に学んでみると、まだまだ未開の地でやることがいくらでもある。それが面白くてたまりませんでした。特に、この分野は数学や物理、工学などいくつもの切り口からアプローチができます。教育や医療とも相性がよく、さまざまな分野の考え方を取り入れることができます。まさに「異分野の架け橋」となれる領域なのです。Nature Architectsで、物理的対象も業界領域も幅広くポテンシャルを見いだせるのは、この頃の手ごたえが大きいのかもしれません。
メタマテリアルでイノベーションを起こせるという確信
結果的に創業へのステップとなったのは、大学院在学中に未踏IT人材発掘・育成事業に採択されたことです。創業者の大嶋やCTOの谷道との当時の付き合いの中で、「折紙という学術的な研究が産業に応用できるか」という課題感から未踏に応募しました。折紙には、形をダイナミックに変化させ、小さく折りたたんでスペースを節約したり、薄い材料でも折ることで強度を保ったりできるといった特徴があります。このような折紙の技術を一般のデザイナーなども容易に使えるよう、谷道と2人で「ファブリケーション指向の折紙設計支援ツール」のテーマでプロジェクトに取り組み、折紙技術を用いたプロダクト設計支援ツール「Crane」を開発しました。ニッチな領域のソフトウェアですが、世界で約3万ダウンロードされ、主に海外で使われています。また、創業者の大嶋との出会いをきっかけにメタマテリアルという技術分野にも興味を持ちました。ある材料に穴やスリットなどの形を付与することでその材料に無い機能を付与することができるメタマテリアルの技術は非常に産業応用の適用可能性が高いと感じました。こうした経験から、折紙工学をベースとしてきっかけとしてたどり着いたメタマテリアルというものが世の中のものづくりに役立ち、製造業でイノベーションを起こすきっかけになるだろうという確信を強く持ち始めました。そこで、それを具体的に社会実装していこうということでNature Architectsを創業しました。
自分たちの技術で日本の製造業を底上げできることは、エンジニア冥利に尽きる
創業から数年を経た今、ビジネスとして大きな市場を見いだせるフェーズに来ています。例えば自動車産業は長い歴史と大きなスケールがあるにもかかわらず、メタマテリアルなどの幾何学的な考え方は設計に使われてきませんでした。しかし今、既存のやり方を一変させる新しい技術としてメタマテリアルが注目されています。それもR&Dだけでなく、そのまま自動車設計に実装していこうところまで来ています。日本の自動車業界が培ってきた世界に誇る設計技術と、私たちの設計技術とで互いを高めあい、一緒に成長していけるパートナーとして仕事ができていると実感しています。一人のエンジニアとしても、実際のプロジェクトの中で、「難しいがゆえに面白い問題」を次々解いていくことの醍醐味を強く感じます。さらにいえば、日本の製造業の力を底上げすることにも貢献できているといえるわけで、エンジニア冥利に尽きます。
バックグラウンドは多様。技術を面白がるマインドセットを共有したい
Nature Architectsで実際に活躍しているメンバーのバックグラウンドはかなり広範です。共通しているのはマインドセットです。仕事として技術をやるというよりは、その技術をとにかく面白がって、さらに深化させていける人が活躍しています。もう1つ、どんどん手を動かして探索するスタンスも共通しています。当社では、シミュレーションやモデリングをガンガン回していくのに最適な環境を用意しています。私も一人のエンジニアとして感じますが、これは手を動かしたいエンジニアにとってはとても重要なところだと思います。
また、当社だからこそできる経験として、ありとあらゆる製造業の設計の上流工程を行える、というのがあります。一社で何かを設計し続けることにも意義がありますが、領域を超えて多くのケースを扱うからこそ、見えるものがあります。たとえば、空調機で出てきた課題やそこで見つかった構造が、今度は自動車のある領域でも使えたり、建築のある考え方が空調機で使えたり・・・ということが頻繁にあります。アナロジーが次々に利かせられ、有機的につながっていく面白さを体感できます。全く異なる領域で同じような技術的課題に直面したりもして、共通の技術的課題を俯瞰して見られるのは、ものすごくエキサイティングです。
「エンジニアの楽園」をつくりたい
Nature Architectsは今、メタマテリアルという技術がさまざまな領域に具体的に適用され、技術と産業が変わっていくのが見えてきた段階にあります。これまで創業者(現・顧問)の大嶋を中心に、メタマテリアルの可能性や世界を変えるためのビジョンを発信することに注力してきました。その甲斐もあり、メタマテリアルが実際にどう使えるかという検証フェーズはひと段落したといえます。次のステップとして、具体的な実装を精度高く、数多く行い、世の中に提供して大きなインパクトを与えるフェーズに入っています。それに合わせて経営体制も変化させていきます。ここから一気に多様な産業や企業との設計プロジェクトが生まれ、エンジニアとして多様な経験ができるというタイミングです。私も経営者として、「エンジニアの楽園」を実現させたくて、とにかく面白い設計の課題を皆に提供し、それを解くためのベストな環境を用意しようとしています。
ぜひ皆さんと一緒に、技術を最高に面白がりながら未来を創っていきたいと思います。
代表取締役 CEO
須藤 海
東北大学理学部卒業後、東京大学大学院総合文化研究科にて、折紙工学の研究により修士号取得。
折紙技術を用いたプロダクト設計支援ツール「Crane」を谷道と共に未踏事業にて開発。
修士課程修了後、Nature Architectsに取締役Chief Research Officerとして参画。2024年度ソフトウェアジャパンアワード受賞。Nature Architectsの研究開発をリードすると共に、顧客の前面に立ちプロジェクトの推進から新規案件の獲得まで幅広く貢献。